お知らせ
子宮内膜症、子宮腺筋症の患者さんに知ってもらいたいこと
子宮内膜症は生殖年齢の女性の10%に発症します。当院にも連日ひどい生理痛や生理の量が多くて困っている患者さんが受診されます。その中には卵巣や子宮が大きく腫れている場合があり、一目で子宮内膜症や子宮腺筋症とわかる患者さんも含まれます。子宮内膜症の症状は幅広く多岐に渡ります。
子宮内膜症と診断される平均年齢は34.4歳であり、そのピークは30代後半から40代前半と考えられています。最近では10代の子宮内膜症に関する多くの報告もあり、思春期子宮内膜症と呼ばれています。月経困難症や慢性骨盤痛を伴う若年者の約6割に腹腔鏡検査で子宮内膜症が確認されています。実を言うと子宮内膜症は10代から40代の幅広い世代で非常に身近な疾患の一つとなっています。
子宮内膜症、子宮腺筋症は月経痛、過多月経などの月経トラブルに始まり、さらには不妊症の原因となることが知られています。また妊娠した場合でも前置胎盤や妊娠高血圧腎症などの産科合併症に注意を要します。
子宮内膜症のがん化は大きな問題です。卵巣子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)の0.72%ががん化し、卵巣がんとなることが知られています。また子宮内膜症の女性は卵巣がんに加えて乳がん、甲状腺がんの合併も上昇します。子宮内膜症は良性疾患ですが、卵巣がんをはじめとした様々な悪性疾患との合併に注意が必要です。
また子宮内膜症の女性は脳梗塞や狭心症などの心血管疾患のリスクが上昇します。子宮内膜症のない方と比較して、子宮内膜症の女性では脳梗塞が1.9倍、狭心症が1.5倍に増加します。子宮内膜症の背景にある慢性的な炎症が長年にわたり血管内皮機能を障害し、その結果として心血管疾患を来すことが指摘されています。
さらには子宮内膜症の女性で骨粗しょう症の有病率が1.9倍と増加することが知られています。子宮内膜症の治療としてGnRHアゴニスト/アンタゴニストによる偽閉経療法が非常に有効な場合があります。子宮内膜症は卵巣ホルモン(エストロゲン)に依存した慢性炎症性の疾患であり、閉経状態により子宮内膜症の症状改善が期待できます。一方で、骨リモデリングにおいて卵巣ホルモンは重要であり、偽閉経療法により骨密度が低下する可能性があります。
定期的な骨密度検査を行うことにより、子宮内膜症の安全で適正な治療を継続する必要があります。当院では骨粗鬆症ガイドラインの推奨するDXA法による骨密度検査を導入し、定期的な骨粗しょう症の早期発見に努めています。
子宮内膜症や子宮腺筋症は、月経がある年齢だけではなく、閉経後もさまざまな問題を引き起こす可能性があり、正に女性のすべてのライフステージにかかわる疾患と考えられます。
子宮内膜症、子宮腺筋症の治療では患者さんごとに治療のゴールが異なります。ある方は月経痛をとること、ある方は妊娠すること、またある方は月経前の排尿トラブルを解決したいなどなど・・・。
子宮内膜症、子宮腺筋症の治療では、まず第一に治療目標の設定が重要です。当クリニックでは患者さんと十分にお話した上で、お一人お一人のゴール目標に沿った治療方針を決定させていただきます。